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深夜零時を廻っても辺りは明るかった。建物の隙間に所々黒い影を造るネオン・サインの光は強く、見つめているとくらりと眩暈に誘われるようだった。冷えた空気が襟の隙間に入り込んで頸を擽る。隣の建物より少し奥まって建てられた建物を目指す。建物の正面が見えてくると、気が逸るのが解った。黒いドアの表面に、金色の、大きいとは評価出来ない見慣れない形をしたプレートが取り付けられている。一度、そのプレートに書かれた不思議な形の文字を読もうとした事があったが、ピントがずれた時のように巧く読み取る事が出来なかった。それからは読もうという気が起きなかった。 黒い扉を押し開き、狭い通路を突き進む。壁や床はコンクリートの打ち放しだった。コンクリートの打ち放しは、あっさりとした見た目だが、技術の要る処理である。初めて見た時は感心したものだ。突き当りを左に折れるとフロアが広がり、小さな赤いライトが二つ黒い天井に埋め込まれているだけで、隅の方にはライトの恩恵を受けらずに黒い闇を湛えている場所があった。フロアの壁にはいくつかの黒いドアがある。小さなライトの下では数える事が出来なかった。吸い寄せられるように、右端にあるドアへ進む。そのドアの取っ手を握るとひやりと冷たく、腕から伝わって鼓動を速めるようだった。 ドアを開けると途端に複数の話し声と笑い声、奥のフロアから音楽の重低音が響いてくる。煙草の煙を手で除けながら、毛の長いカーペットの上を歩く。カウンタに着いていた女がちらりと視線を寄越し、また戻した。通り過ぎたボックス席からは、グラス同士がぶつかる音と氷に罅が入る音が聴こえてくる。更に進んでいくと、一番奥のボックス席に坐った女の足が見えてくる。唯一パーティションで区切られた席だった。 「遊戯」 ボックス席の真ん中に坐っている男に声を掛けると、男の隣に横坐りになった女が声の主を見上げる。遊戯と呼ばれた男は、ゆっくりとした動作で顔を上げた。 「いい夜だな、瀬人。どうした?」 遊戯は微笑んで瀬人に問うた。赤い瞳が薄暗いライトの光を反射して艶めいている。 「…遊びに来いと、言った」 パーティションの外には聴こえないような声で瀬人は言った。 「今日来るとは思わなかったな。最近はずっとここにいるからいいけど…」 遊戯はそこで言葉を切り、女の方に向き直って言った。 「瀬人だ。可愛いだろう」 女が瀬人の顔を見上げてくる。瀬人は睫のカールが綺麗だと思った。薄暗いライトで観察に充分な明るさではなかったが、それだけははっきりと見る事が出来た。 「…待ちきれないの?」 女が言って、ふふ、と柔らかい笑みを零した。大腿が甘く痺れる。 「坐らないのか?」 瀬人が黙っていると、遊戯がソファを指して言った。瀬人は小さく頸を横に振って拒否する。それを見た遊戯は口許に笑みを湛えた。その唇の形と、赤い大きな瞳を包む薄い瞼を見て躰の芯がじわりと温まる。 「仕方がない奴だな…」 遊戯は女の肩を撫でてから立ち上がった。 「舞、時間までちょっと遊んでてくれ」 瀬人は、遊戯を見上げた女の潤んだ眼を一瞬だけ見た。 |
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フロアの壁にいくつかある黒いドアの一つを通ると、ベッドと椅子が視界に入る。瀬人は前を歩く遊戯の躰にむしゃぶりつきたかった。遊戯はベッドに腰をかけると、腕を広げて瀬人を見上げた。 「…おいで」 瀬人はじわりと眼が潤むのを感じた。遊戯の前に膝を付き、細い腰に縋るように腕を廻す。遊戯は胸に擦りつけてくる瀬人の頭を撫でてやった。 「フフ」 楽しそうに遊戯が笑う。擦りつけていた頭を離し、瀬人はゆっくりとした動作で遊戯を見上げた。 「待てないのか?」 瀬人がこくりと頷く。少し眉が寄って、泣きだしてしまいそうな顔だった。 「フフ。欲しいか」 「欲しい…」 瀬人の薄い唇が震えている。それを満足に見届けると、遊戯は瀬人を立ち上がらせ、椅子に導いた。 「そこに坐るんだ」 洟を啜るようにして息を吸った瀬人はそれに従った。遊戯は少し屈んだ瀬人の尻に掌を這わせる。中指を滑らせ、肛門をパンツの上からくっと押さえた。 「…は」 瀬人は溜息を吐いた。椅子に坐るのを中断してしまう。 「下着ごとパンツを脱いで、浅く坐るんだ」 遊戯の指示にかちゃりと音を立ててベルトのバックルを外す。パンツに手をかけると、遊戯が手を離した。スリムな作りのパンツを膝下まで引き下ろした所で遊戯が瀬人の腕を掴んだ。掴まれた腕の掌の温もりを感じながら、瀬人は漸く椅子に腰かける。半ば起った己のペニスを見て、眼を逸らすように俯いた。 「相変わらず可愛いな」 そう言ってから、遊戯は瀬人の腕を掴んでいた手を手首、手の甲まで滑らせ、そのまま瀬人のペニスに導いた。 「見てるから自分でやってみな」 そっと手を離して瀬人の色素の薄い髪を撫でた。 「…」 一度逡巡してから、瀬人は己のペニスに手を伸ばした。掌で包むように握って、上下に手を動かし始める。口腔に籠もった暖かい息が吐き出されて胸にかかる。ペニスを握った手が上下する距離が長い程、躰に痺れが走る。最初は緩慢だった動きが、だんだんリズミカルになってくる。 「く…、は」 遊戯の手が伸び、シャツの上から瀬人の乳首を転がす。じわりと胸の周りから背筋が痺れてくる。 「気持ちいいか?」 「…んん。気持ち、いい…」 遊戯の問いに呟くように応える。遊戯が乳首を転がす度に大きな声が出そうになるのを堪える。遊戯の掌が横腹に滑ると、滲み出てきた先走りがくちゅと音を立てた。然程大きな音ではなかったが、よく耳に響いて羞恥心を煽った。 「フフ…」 遊戯の吐息が瀬人の頬を熱くさせた。先走りに滑る掌が音を立て続けて、羞恥心で視界が狭まってきていた。は、は、と短い呼吸を繰り返す。手が上下するスピードが速くなってきた事を、瀬人はぼんやりと認識している。 「…あっ! あ、…は」 小さく呻いた瀬人が手を止める。 「出来ない、遊戯…」 今までは気持ちが良くなって命令せずとも手が勝手にペニスを扱いてしまう様子だったが、達しそうになっては手が止まってしまうようだった。 「恐いのか?」 「……」 遊戯がシャツの裾から手を差し入れて脇腹を撫でる。 「…いつもよりいいくせに」 フフ、と笑われる。瀬人は背を震わせて下唇を噛んだ。沈黙する。 「本当に仕方がない奴だな。ほら、オレも手伝ってやる」 ペニスを握ったままの瀬人の手を包むように手を添えて、遊戯はそそり立ったペニスを上下に扱き始めた。 「…あっ」 羞恥と快感で滲み出た涙が瞼に溜まる。再び呼吸の間隔が短くなる。とても切ない気持ちになってくる。胸に隙間風が吹き込むようだった。 「ん、ん、…」 下唇を噛むが、手の動きが速まるに連れて困難になってくる。薄く開かれた瞼越しに見えるペニスは粘液にまみれてライトの光を反射して妖しく見える。背筋を何かが這うようだった。先程から力の籠もっている大腿が辛かった。己の手を包む遊戯の手の力が瀬人にとって気を逸らせる一因だった。 「あ、ゆう、ぎ…っ」 遊戯は何も言わずに口に笑みを湛える。もう一度「遊戯」と呼んで、瀬人は果てた。荒い息を宥めもせずに、己のペニスを見る。吐精する直前に遊戯は瀬人の手を包んでいた手を離して亀頭に添えていた。遊戯の細いしなやかな指が、白く濁った精液を滴らせている。遊戯が手を口許に運び、滴る精液を舌で舐め取る。指を開くと粘ついた精液が橋を作った。遊戯はそれを見つめて笑い、舌を伸ばした。 瀬人はその様子をひどく淫らな気持ちで見つめていた。曝されている大腿からペニスまでが甘く痺れる。 「可愛いな、瀬人…」 遊戯が肘掛に手を突いて耳許で囁いてやると、瀬人は躰を震わせて潤んだ眼で遊戯の顔を見上げた。遊戯は張り詰めた乳首を指で挟んでいじってやる。 「…遊戯」 潤んだ眼で遊戯を見つめ続ける。ペニスが吐精しても、尻にある淫らな穴が熱いものを欲しがってひくひくしている。切ない気持ちになった。 「……」 沈黙して瀬人の艶めく眼を見つめて遊戯が微笑む。 「悪いな。生憎、今日はお預けだ」 瀬人は残酷な事を言うと思った。どうして、まだ欲しいのに、遊戯が欲しいのに、何故遊戯は応えてくれないのだろう。 「何故」 瀬人は短く問うた。何か、遊戯の気に触る事をしたのだろうか。隣に坐っていた女との時間を邪魔したのが気に入らなかったのだろうか。そうならば、何故遊戯はオレを拒まなかったのだろう。…解らなかった。 「明日は、お前の誕生日だな。…パーティ、やるんだろ?」 遊戯は微笑んで言った。一度瀬人に口付けると、顎を引いて唇を離す。瀬人の下唇をぺろりと舐めて躰を引いた。 「行ってやるよ。相棒と、二人で…」 遊戯が、もう一人の遊戯と一緒に、誕生日パーティに訪ねてきてくれると言う。どきりとした。瀬人は、遊戯との情事をもう一人の遊戯に見られるのが、胸がざわめいて好きだった。鼓動が速くなる。 「オレがいいと言うまで、しちゃ駄目だぜ…」 ペニスを指でつついてから、瀬人の眼を見つめて、遊戯は笑った。「舞との約束がある」と言って、遊戯は肘掛から手を離し、ドアへ向かった。 「またな」 上半身だけ瀬人の方を振り向いて、遊戯が言う。瀬人は、閉まっていくドアから覗く遊戯の赤い髪を眩しそうに眼を細めて見送った。 |
| das Ende. |