真夜中のシルヴプレ
 下腹を撫でる手付きで、起ち上がったペニスが揺れる。官能を感じるが、たまに指に力を込めて押される箇所から、尿意を呼び起こされる。瀬人は大腿に力を込めた。
「…獏良、厭だ」
「何がだ」
 にやりと笑い、ペニスに指を這わせる。桃色の先端が、カウパー氏腺液にまみれて月の光を反射している。それを塗りつけるように指先でペニスを弄ぶ。
「う……」
 それからまた獏良は下腹へと手を這わせ、ぐっと指を押し込む。定期的に力を込めていたかと思えば、たまにリズムを外して強い刺激が与えられ、まざまざと結果を意識させる。瀬人は大腿に更に力を込めた。

―― 厭だ。人の前で漏らすなんて事は……。

「獏良、本当に……」
 瀬人は獏良を見上げて懇願した。獏良が目線を下げてみれば瀬人の足の親指は折り曲げられ、力が籠もって白くなっている。
「ヒャハハハハハ!」
 尿意を耐える様子はとても健気だった。獏良は羞恥で真っ赤に染まった瀬人の耳朶を舐め上げると、猶も撫で廻していた下腹にぐいと指を押し込んだ。瀬人は眉根を寄せて懸命に尿意を耐えた。
「いいねぇ。その表情……、ハハハ!」
 獏良がペニスの先端の窄まりを指先で擦る。
「さ、出しちまいな、社長さん。楽になれるぜぇ?」
 笑いを含んだ声で、悪魔が囁く。ぐりぐりと下腹を押す。
「あ。…い、やだ。…く」
 ペニスの先端の窄まりから少量の尿が出てしまった。瀬人の瞼には涙が溜まって、今にも零れ落ちそうだった。
「ほら、もうすぐだ。……な」
「やめろ……厭だ」

―― いっそ出してしまいたい。

 獏良が下腹から手を離して瀬人のペニスをゆっくりと扱き始めた。
「あ…、駄目だ、ば、くら」
「出せよ」
 瀬人の耳許で囁き、耳を噛んだ。
「は……!!」
 耳への鋭い刺激で、ペニスに集中させていた意識が飛んでしまった。黄色く濁った液体がカーヴを描いて次々と床に叩きつけられていく。もうペニスを意識しても、尿は止まらなかった。
「ああ……」
 瀬人の口から喘ぎとも脱力とも取れる声がした。
「おお、溜まってたみてぇだな」
 甲高い獏良の笑い声が、遠くから聴こえるようだ。獏良はベッドに腰掛け、薄ら笑いを浮かべながら、脱力したように尿を噴出する瀬人を観察した。
「見、るな…!」
 細めた眼に獏良が映り、歯を食い縛って顔を背けた。獏良が笑った。

 漸く噴出が終わるかという頃、獏良が立ち上がって瀬人の前に歩み寄った。獏良の靴がアンモニア臭を漂わせる床の尿を踏んでぴちゃりと音を立てる。瀬人は獏良の靴の爪先を見つめていた。獏良の指が瀬人の耳を滑り、顎を掴んで引き上げた。瀬人の頬には涙の跡が見える。為すがままになっていると、瀬人の眼に獏良の顔が映った。見ていられずに、瞼を閉じる。獏良は顎を掴んだまま親指で唇をなぞり、吸った。それから徐に瀬人の背後へ廻り込んで縄を解き始めた。縄が緩んだ瞬間、忘れていた痛みを思い出させた。

 獏良はベッドに腰掛けると、瀬人を前に坐らせた。ジーンズのジッパを下ろし、下着ごと引き下ろして再び坐った。充血したペニスが揺れる。それから獏良は、前に坐る瀬人の眼を覗き込んでやった。瀬人の唇が震える。
「出来るだろ?」
 獏良が促すと、瀬人は躊躇いがちに手を伸ばした。指の皮膚がペニスの形や感触をを伝えてくる。瀬人は舌を出して笠を舐めた。幹の側面に、根元から舌を這わせる。獏良の口許が吊り上ったのを、瀬人は見る事が出来ない。幹を何度も這い、すっぽりとペニスを啣え込んだ。舌の先を使って先端の窄まりを抉る。
 ふう、と息を吐いて獏良が瀬人の頭に掌を置いた。顎に触れて見上げるように仕向ける。
 瀬人は舌を幹に添えて頭を前後動かし始めた。舌に伝わるペニスの形が頭に思い浮かんでくる。舌を動かしながら唇を窄めて幹を吸い、睾丸を揉む。続けるごとに熱中していく過程には、特に気がつかない。いつの間にか、ペニスを愛でる手段を探している。そして、自分によって吐精して欲しい。唾液とカウパー氏腺液が粘着質な音を立てる。

―― もっとぐちゃぐちゃにしてやりたい。

 獏良が瀬人の髪に耳許から指を挿し入れ、指で耳を撫でる。そうされると瀬人は熱心になっていくばかりだった。
「出すぜ」
 獏良が立ち上がると側頭部を両脇から掌で支えて動かし始めた。咽喉にペニスの先端が当たり瀬人は眼を細める。口腔を窄めて耐え、幹に舌を押し当て、唇を窄める。弾んだ二人の息の感覚が短くなっていく。そしてペニスが半ばまで引き出された時、獏良は吐精した。
「……ハ」
 大きく息を吐いて獏良は脚の力を緩めた。瀬人の咽喉が何度か上下し、笠から先端の窄まりまでを舌で拭いながら吸った。獏良の手が瀬人から離れ、瀬人の腕を掴み、ベッドの上に引っ張り上げる。瀬人の眼球の潤みが月の光を反射する。
「…人のこた言えねぇけどよ。さっきも思ったけど細っこい躰してんな」
 ここは逞しいけどな、と笑って獏良は瀬人のペニスをつついた。恥ずかしくなって瀬人は歯を食い縛る。
「さ、膝をつきな」
 獏良が肩を掴んで瀬人をベッドに倒れさせると、手首を返して瀬人の臀部に掌で触れた。大腿から腰に向かって撫でると、瀬人の背が反り返った。何度か撫で、中指を割れ目に滑らせ窄まりまでゆっくりと押し当てていく。
「ふ…」
 窄まりに到達し、円を描くようにして中指を押し当てると、窄まりが伸縮する。
「何でも揃ってるんだな。お前の所は」
 獏良が窄まりを撫でながら言う。
「そんなに好きか?」
 獏良がにやりと笑う。片手でローションの蓋を開け、窄まりを撫でる中指にローションを垂らした。
「あ…!」
 瀬人は冷気で冷えたローションの冷たさを感じて声を漏らした。いつの間に持っていたのかと、疑問に思う。器用な男だ。垂らしたローションを中指で窄まりにまぶす。それから更に垂らして中指を折り曲げてゆっくりと肛門に挿し込んでいく。瀬人は小さく息を飲んだ。獏良が指を寝かせて内壁にローションを塗りつけると、今度は溜息が漏れた。中指の腹で粘膜を掻き回すようになぞる。ゆっくりと廻しながら出し入れし始めると、引き抜く時、きゅっと指を締め付けてくる。獏良の薄い唇の端が吊り上がる。
「もっと気持ち良くなりたきゃ、言いな」
 悪魔が執拗に内壁を擦る。
「…はぁッ……。…し、…く、れ」
 瀬人が頭を枕に押し付けて言う。
「何だ?」
「…して……く、れ……」
 瀬人が気持ち顔を獏良に向けて言う。
「…どうして欲しい。欲しけりゃちゃんと言ってみな」
 獏良は中指を引き抜き、窄まりを撫でながら空いた方の掌で瀬人の背中や脇腹を摩る。
「ふ…」
「言わなきゃ解んねぇだろ?」
「獏良……。く…、入れて…くれ」
 獏良は瀬人の腰を両手で掴むと起ち上がったペニスを瀬人の肛門に挿し入れた。吟味するようにゆっくりとペニスを押し込み、抜けそうになるまで引き抜く。
「ぁっく」
 内壁が引き摺り出される感覚に、自然と括約筋が引き締まる。
「ああ…ッ」
 押し込まれる感覚には押し出されるようにして声が出る。獏良は抜き差しのスピードを速めた。
「…柔らかいかと思ったら、随分と締め付けるんだな」
 少し角度を変えて抜き差しすると、尿道への刺激が強くなり瀬人は一際高く声を上げた。一頻り尿道を刺激し、更にスピードを速める。獏良の腰と瀬人の臀部がぶつかる頻度が増えていく。
「んんッ、く…」
 もう、ペニスが自らの肛門の内壁を擦る事しか考えられない。ずるずると内壁を引き摺り出され、ぐぐぐとペニスが押し込まれる事の繰り返し。自分の声が勝手に出てくるようだ。それも、少し遠くから聴こえるような気がする。
「ば、くら……ぁくっ、もっと…入れて」
「お前は本当にこうされるのが好きなんだな。淫乱め」
 独特の甲高い耳障りな声で獏良が笑う。
「気持ちいいか?」
 激しく腰を瀬人の尻に打ちつけながら、何度目かの問いをする。
「は…、いい、気持ちいい…!」
 満足げに笑いながら獏良は言った。
「いけ」

 瀬人はぼんやりと白っぽい天井を眺めていた。正体を現し始めた太陽の光が、ほんの少しだけ開いているカーテンの隙間から入ってきている。改めて息を吸うと、幽かに饐えたようなにおいを感じた。はっとして木製の椅子を置いてある箇所を見る。いつも通りの位置に、いつもどおりの方を向いている。昨夜の出来事だと思ったのは本当は夢に見た事だったのか。もう一度空気を吸ってみたが、今度は饐えたようなにおいは感じられなかった。
 瀬人はベッドから降り、バスルームへ向かった。大きな鏡が備え付けられている洗面台がある。水はよく捌けているし、白く輝いている。鏡も丁寧に磨き上げられている。瀬人は鏡で自分の顔を見た。幾分意識は明瞭になってきたが、普段鋭い眼光を放つ眼はまだ眠そうだった。違和感を感じて頸に手をやる。じわりと痛みを感じ、瀬人は昨夜の出来事が夢ではなかったのだと判断した。ガウンを肌蹴、鏡に上半身を映す。白い肌に、紅い縄の跡が何本も付いていた。ぞくりと肌が粟立った。

 シャワーを浴びて髪を乾かし、肌にぴったりとフィットした服を身に着ける。頸を捻った時、僅かに痛みを感じた。頸の傷は、タートルネックで隠れてしまって今は見えない。姿見で自分の躰を一望してからダイニングルームへ向かう。
「おはようございます、瀬人様」
 主人を待ち構えていた年嵩のメイドが頭を垂れる。瀬人は「ああ」とだけ言葉を返して、いつものように背筋を伸ばし堂々と長毛のカーペットの上を歩いていく。ダイニングルームに到着すれば、最愛の弟が寄ってきて挨拶をしてくれる。瀬人は僅かに笑んで、もう一度「ああ」と返し、柔らかなクッションが心地好い椅子に着いた。

― 了 ―