Darkness, walk with me
「オレは闇が大好きでね…」

―― 我が主よ、哀れゆかしき世界を。

「苦痛こそ快楽だ」

―― 我が主よ、憐れみ給え。

「究極の苦痛と快楽を胸に抱いて闇への供物となれ」

―― 暗い。

 バトルシップは消灯され、殆ど真っ暗闇だった。地上には街の明かりが点々としている。マリクは、バトルシップの縁に凭れかかって夜の闇を見ていた。闇はいつも沈黙していて、世界は、とても静かだった。上空を飛行するバトルシップには地上の音も聴こえてこない。そして、バトルシップも、静かだった。ひょっとして自分一人が乗船しているのではないかと、錯覚する。そんな筈はない。自分がこれから破壊する、闇への供物が眠っているのだ。闇に背中を舐められたかのように、ぞくりと肌を震わせる。とても大きな、形のない闇。
 マリクは、股間に手を伸ばした。カーキ色のパンツを押し上げるファロスを一撫でする。
「…ふ」
 マリクは唇だけで笑った。ジッパを引き下ろし、前を寛げる。下着の上からファロスを撫でると、僅かな痺れを感じる。押し広げるようにして下着ごとパンツを下げ、マリクは壁に背を凭せかけた。半ば起ち上がったファロスを掴み、ゆっくりと上下に摩る。闇に眼が慣れたとは言え、地上の点々としたネオン・サインと太陽の光を反射した月だけでは、眼の前に闇が広がるだけだった。
 空を見上げれば、幽かに星々が見える。くすんだ色の髪が頸を擽る。漂う闇が肌を舐め、ぞくぞくと肌が粟立った。親指の腹で笠を撫でると、じわりと下半身が疼く。小さく息を吐くと闇が蠢くのが解った。マリクは、暗闇の中で自分一人が息を切らせている事に、少々可笑しくなって口許を斜めにして笑った。ファロスを掴む指に入れる力に強弱をつけて根元から先端に向けて扱き始める。笠の先端からは透明な体液が滲み出てきていた。少しずつ、自らの輪郭が闇に溶け出していっているようだ。

―― 冥い。

 手の動きを速める。上下する指で体液が笠から幹にまで広がっていく。体液の粘度と、それの立てる音が耳を擽り、マリクの手の動きが速くなっていく。
「く……」
 腕に力が籠もり、背が背後の壁を押す。腰が自然と前方にせり出てくる。薄く開いた瞼から見る事が出来るのは、真っ暗な闇だ。指先で笠の窄まりを撫でると脚が震えた。長い前髪が額を擽る。マリクは手を動かすスピードを上げる。自らの短い息が鼓膜を通して聴こえてくる。今ではもう一つ膜が張っているかのようだった。

―― 昏い。

 じわりと闇が蠢く。マリクの筋肉質の腕が上下する。この静かな闇を動かすのは、マリクと太陽。足下の闇が這い廻る。今はもう粘液の立てる音と自らの短い息が闇と一体化していた。
「…ハッ」
 マリクの腰が小刻みに震え、射精が近い事が解る。マリクの手の動きが更に速くなった。今では動かすというより勝手に動いているという感覚だった。根元から先端の笠まで指が上下するのを止められない。何度目かにそうした時、マリクは射精した。腰が前後し、マリクはゆっくりと膝をついた。残った精液がぱらぱらと雫となって落ちる。何度かファロスを指先で扱くと、マリクは再び壁に背をついて眼下に広がる世界を見渡した。水平線が幽かに見える。東の空が白み始めてきた。

―― 哀れゆかしき世界。

 マリクは、一度瞬きをすると、闇を震わせる声で静かに言った。
「闇よ、我と共に在れ」

― 了 ―